東京為替見通し=停戦不信で巻き戻しは一時的か、トランプ政権は袋小路から脱せず
昨日の海外市場でドル円は、中東情勢が悪化することへの懸念が後退したことで、一時157.89円まで弱含んだ。「イスラエルの『停戦違反』により、ホルムズ海峡を通過する石油タンカーの航行が停止した」との報道も伝わったことで、158.80円付近まで下げ渋った。ユーロドルは一時1.1722ドルと3月2日以来の高値を付けたが、買い一巡後は徐々に上値を切り下げ1.1644ドル付近まで下押しした。
本日の為替市場も、主導権を握るのは引き続きイランを巡る戦争の行方だろう。昨日の停戦発表後も、イスラエルによる停戦違反や、米・イスラエル・イラン三者間での条件認識のズレが露呈し、情勢は依然として不透明だ。加えて、明日10日には米国とイランの代表団が、仲介国であるパキスタンの首都イスラマバードで協議に臨む予定。観測と不確実性に満ちたトランプ政権の発言一つで、相場が大きく動意づく可能性は高い。
昨日は日本時間早朝、米国が対イランのインフラ攻撃を2週間停止したことを受け、原油価格は急反落。これに伴い米金利も一時低下し、これまで進行していた有事のドル買い、さらには原油決済に絡むドル需要の巻き戻しが入った。トランプ政権にとっても、自発的な後退と見られかねない「弱腰のTACO化」を回避し、第三国の要請に応じた形での延期という体裁を整えた点では、まさに渡りに船の展開だったと言える。
しかし、トランプ大統領の外交観は一貫してビジネスライクだ。軍事的圧力とディールで問題を解決できるという発想は、外交を信頼と制度の上に築くべきとする多くの国々、そしてイランの認識とは大きく乖離しているとみられる。このズレが顕在化すれば、昨日の巻き戻しは単なるご祝儀相場に過ぎなかったと評価されるだろう。
イランは、米国が10項目からなる和平案を受け入れたと主張しているが、その内容を見る限り、米国側が同意するハードルは極めて高い。仮に「受け入れ」が事実であったとしても、それは過去2度にわたる奇襲的攻撃に続く、3度目の「だまし討ち」への布石である可能性すら否定できない。例えば、イランは攻撃で失われたインフラや人的被害に対し、米国およびイスラエルからの直接補償を要求している。だが、米国は開戦からわずか6日間で113億ドル超の戦費を費やし、その後も1日10億から20億ドル規模の追加負担を重ねていると一部では報じられている。既に巨額のコストを投じた中で、さらなる補償を受け入れる余地は乏しく、財政が混迷する現状を踏まえれば、トランプ大統領がこれを承認する可能性は低い。
さらに、ホルムズ海峡の通行料を巡る問題も火種だ。イランは通行料をオマーンと分配し、自国取り分を戦後復興に充てる構想を示している。一方でトランプ大統領は、「世界の安全を守っている米国が受け取るべきだ」と主張。自らの軍事行動で封鎖リスクを高めた当事者でありながら、そのコストを回収しようとする姿勢は、国際社会の常識とは大きくかけ離れているとの見方が強い。
こうした数々の相違点を踏まえれば、双方が受け入れ可能な妥協点を見出すのは現時点では困難とみられる。ただし、戦争の長期化がイランのみならずトランプ大統領にとっても不利益であることは明白だ。戦費の膨張と支持率の低下という現実は日々重みを増している。和平案を拒否すれば泥沼化は避けられず、再び強硬姿勢へと回帰するだろう。その場合、原油価格は急騰、株価は下落、米長期金利は上昇し、ドル買いが再燃する一方で、支持率の低下には歯止めがかからない。和平案を受け入れれば、巨額の戦費を投じた意味が問われ、拒否すれば戦争の長期化、まさに袋小路に入り込んでいる。
短期的には、戦争の長期化は原油高の高止まりを通じて決済通貨としてのドル需要を支え、ドル買い優位の構図を維持するだろう。しかし、イラン攻撃以前から顕在化していたトランプ大統領の常軌を逸した言動は、第一次政権時以上に際立っている。攻撃後は、米国および政権に対する国内外の信頼が著しく毀損されたことも否定できない。仮に和平が成立したとしても、失われた信用が回復することはないだろう。今後、いわば「ドンロー主義」の歪みが明確になるにつれ、米株・米債・ドルの同時売りという中長期的な潮流が強まる可能性も十分に視野に入れておくべき局面にある。
(松井)
本日の為替市場も、主導権を握るのは引き続きイランを巡る戦争の行方だろう。昨日の停戦発表後も、イスラエルによる停戦違反や、米・イスラエル・イラン三者間での条件認識のズレが露呈し、情勢は依然として不透明だ。加えて、明日10日には米国とイランの代表団が、仲介国であるパキスタンの首都イスラマバードで協議に臨む予定。観測と不確実性に満ちたトランプ政権の発言一つで、相場が大きく動意づく可能性は高い。
昨日は日本時間早朝、米国が対イランのインフラ攻撃を2週間停止したことを受け、原油価格は急反落。これに伴い米金利も一時低下し、これまで進行していた有事のドル買い、さらには原油決済に絡むドル需要の巻き戻しが入った。トランプ政権にとっても、自発的な後退と見られかねない「弱腰のTACO化」を回避し、第三国の要請に応じた形での延期という体裁を整えた点では、まさに渡りに船の展開だったと言える。
しかし、トランプ大統領の外交観は一貫してビジネスライクだ。軍事的圧力とディールで問題を解決できるという発想は、外交を信頼と制度の上に築くべきとする多くの国々、そしてイランの認識とは大きく乖離しているとみられる。このズレが顕在化すれば、昨日の巻き戻しは単なるご祝儀相場に過ぎなかったと評価されるだろう。
イランは、米国が10項目からなる和平案を受け入れたと主張しているが、その内容を見る限り、米国側が同意するハードルは極めて高い。仮に「受け入れ」が事実であったとしても、それは過去2度にわたる奇襲的攻撃に続く、3度目の「だまし討ち」への布石である可能性すら否定できない。例えば、イランは攻撃で失われたインフラや人的被害に対し、米国およびイスラエルからの直接補償を要求している。だが、米国は開戦からわずか6日間で113億ドル超の戦費を費やし、その後も1日10億から20億ドル規模の追加負担を重ねていると一部では報じられている。既に巨額のコストを投じた中で、さらなる補償を受け入れる余地は乏しく、財政が混迷する現状を踏まえれば、トランプ大統領がこれを承認する可能性は低い。
さらに、ホルムズ海峡の通行料を巡る問題も火種だ。イランは通行料をオマーンと分配し、自国取り分を戦後復興に充てる構想を示している。一方でトランプ大統領は、「世界の安全を守っている米国が受け取るべきだ」と主張。自らの軍事行動で封鎖リスクを高めた当事者でありながら、そのコストを回収しようとする姿勢は、国際社会の常識とは大きくかけ離れているとの見方が強い。
こうした数々の相違点を踏まえれば、双方が受け入れ可能な妥協点を見出すのは現時点では困難とみられる。ただし、戦争の長期化がイランのみならずトランプ大統領にとっても不利益であることは明白だ。戦費の膨張と支持率の低下という現実は日々重みを増している。和平案を拒否すれば泥沼化は避けられず、再び強硬姿勢へと回帰するだろう。その場合、原油価格は急騰、株価は下落、米長期金利は上昇し、ドル買いが再燃する一方で、支持率の低下には歯止めがかからない。和平案を受け入れれば、巨額の戦費を投じた意味が問われ、拒否すれば戦争の長期化、まさに袋小路に入り込んでいる。
短期的には、戦争の長期化は原油高の高止まりを通じて決済通貨としてのドル需要を支え、ドル買い優位の構図を維持するだろう。しかし、イラン攻撃以前から顕在化していたトランプ大統領の常軌を逸した言動は、第一次政権時以上に際立っている。攻撃後は、米国および政権に対する国内外の信頼が著しく毀損されたことも否定できない。仮に和平が成立したとしても、失われた信用が回復することはないだろう。今後、いわば「ドンロー主義」の歪みが明確になるにつれ、米株・米債・ドルの同時売りという中長期的な潮流が強まる可能性も十分に視野に入れておくべき局面にある。
(松井)