東京為替見通し=引き続き米中協議に注目、米政権の針小棒大がドル円急騰リスク

 昨日の海外市場でドル円は、一時144.45円付近まで値を下げたものの、アジア時間に付けた日通し安値144.40円が目先サポートとして意識されると買い戻しが優勢に。米10年債利回りが低下幅を縮小したことも相場を下支えし145.04円付近まで持ち直した。ユーロドルは1.1448ドルまで強含んだ

 本日の東京時間でのドル円は、米中閣僚級協議の進展期待で底堅さを維持しそうだ。英ロンドンで協議が行われていることで、時差的な問題がありアジア時間に交渉についての報道が伝わりにくい。ただ、交渉が完全に決裂するシナリオは少ないことが、ドル円の支えになる。

 米中閣僚級協議は交渉の進展内容を精査する必要もあるだろう。仮に中国がレアアースの輸出制限の緩和を示した場合でも、5月の関税強化合戦前の水準に戻っただけである。中国を標的にした他の関税方針を米国が撤回しない限りは、中国も妥協をすることはないだろう。しかし、僅かな進展でも針小棒大なトランプ政権が成果を誇張することで、ドル円が急騰し、内容を精査しないでドル買いを仕掛けると、高値掴みになるリスクもありそうだ。

 米中協議は明日11日まで再延長する可能性が高まっているが、これはサプライズではない。中国の貿易交渉官である何中国副首相は先週末に「13日まで英国を訪問し『中米経済貿易メカニズム』会議に出席する」と公表していることで、中国側は交渉が簡単に終わらないことをはじめから示唆していた。米国側はベッセント米財務長官が11日の議会証言を控えて帰国の途を辿ることで、今後はラトニック米商務長官とグリア米通商(USTR)代表が交渉を担当することになる。

 トランプ政権は5月にウクライナと鉱物資源協定に署名して同投資基金を設立し、ウクライナ産のレアアース獲得を目指していたが、ロシアとの和平交渉が決裂したことでレアアースを中国から輸入せざるを得ない。交渉を焦っているのはトランプ政権というのは明白だ。また、昨日はメキシコとの「鉄鋼関税の引き下げと輸入上限に関して合意に近づいている」との一部報道も伝わっているが、4週間後の7月9日に交渉期限を控えているトランプ政権は、他国との交渉合意にも焦燥感を感じているようだ。

 米中協議以外にはロサンゼルスのデモに対して、トランプ大統領が州兵を派遣したことが米国では更に問題が拡大している。ロサンゼルスのデモは不法移民の取り締まりに対してのものだったが、現在米国で拡大しているデモは、州兵派遣に対するものになっている。すでに多くの州で逮捕者が出ているが、州知事の要請がない中での州兵派遣は1965年以来になる。日本と違い州の主権が強いことで、民主党の基盤が強いブルーステート(青い州)でのデモ拡大が、今後の米政局と経済へ影響を徐々に与えていくことになるかもしれない。

 なお、本日は本邦から5月企業物価指数が発表される。今年に入り前年比では+4%を上回っていた同指数だが、+3.5%まで低下する予想になっている。市場の反応は限られそうだが、同時に発表される輸入物価指数とともに、同指標の結果には目を向けておきたい。


(松井)
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