東京為替見通し=日銀利上げ既定路線か?債券サーベイが更に背中を押すか注目

 先週末の海外市場でドル円は、米感謝祭翌日で米債券・株式・商品市場が短縮取引となったことから取引参加者が少なく、150.00円を挟んだ方向感に乏しい値動きだった。ただ、日経新聞電子版の植田和男日銀総裁のインタビュー記事で、タカ派と捉えられる発言や、円安けん制発言が伝わると149.47円まで下落した。ユーロドルは1.05ドル後半を中心に小動きだった。

 本日の東京時間のドル円は、上値が重いか。これまで植田日銀総裁をはじめ日銀要人は、利上げをしたいにもかかわらず、石破総理が就任し、10月の総選挙が決定したことで、政権の意向を組み「経済物価が見通し通り動けば緩和の度合いを調整するが、本当にそうか見極める時間があるので丁寧にやる」とタカ派姿勢が後退させていた。

 しかし、総選挙が終了したとほぼ同時の10月31日には、「時間的な余裕がある(という言葉)は今後使わない」と再びタカ派路線に戻っている。ただ、タカ派後退発言以後の本邦経済指標(全国CPIコア、同・刈込平均値、実質賃金、実質GDP)の結果は、インフレ率のコアコア以外はどれも低下し、GDPは前月分の大幅下方修正を含め悪化したものだった。これらの弱まった指標結果にもかかわらず、週末の日経新聞によるインタビューでは植田日銀総裁は「データはオントラック」と述べているが、「オントラック」だったのは選挙前からであり、「時間的な余裕」発言を撤回したのが、総選挙の終了と同時に政治的圧力が緩和されたことで、以前から追加利上げをしたかったことが示されている(注:植田総裁の日経インタビューは28日に行われたもので、29日の東京都区部のCPI発表前)。日銀が一時的に利上げを停止し政府の意向を組んだのは、日本銀行法(第4条)で「金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』」とされているように、他国のような厳密な独立性がなく、政府の要望には逆らえない状況だったからだろう。

 また、上述のように先週29日に発表された11月の東京都区部CPIでは生鮮食品を除いた結果が、前月の1.8%増や市場予想の2.1%増を上回る2.2%増となったことが、より利上げへの大義名分となるのだろう。よって、今月18-19日もしくは来年1月23-24日の日銀政策決定会合での利上げはほぼ既定路線なのではないだろうか。日銀の利上げが確実視される中で、先週にはニュージーランドや韓国が利下げしたように、他国の中銀は利下げに傾いている。他国中銀には利下げ圧力が高く、一方で日銀の利上げの可能性が高まっていることで、中銀間の方向性の違いで円は買われやすそうだ。

 利上げが既定路線にある中で、本日は日銀から16時発表予定の「債券市場サーベイ」に注目したい。この数年間は12月発表の「サーベイ」の結果が、日銀の決定に影響を与えたとされている。

 一昨年(2022年)は、「サーベイ」の結果で、これまで以上に国債市場の機能度が悪化したことが判明すると、日銀は12月の政策決定会合で長期金利の許容変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大すると発表した。昨年(2023年)は、「サーベイ」が日銀に対応を迫るような結果ではなかったことで、超緩和策が維持され、フォワードガイダンスの文言にも修正が無かったとされている。今年も、このサーベイが今月18-19日に行われる政策決定会合に大きな影響を与える可能性もあることで、要注目となりそうだ。

 円以外では豪ドルの動きにも要警戒。本日は豪州から10月の住宅建設許可件数と小売売上高、中国から11月Caixin製造業購買担当者景気指数(PMI)が発表される。12月9-10日の豪準備銀行(RBA)理事会が予定されていることで、豪州の経済指標や豪ドルが反応しやすい中国の指標に注目したい。また、先週同様にトランプ次期大統領がSNS(TruthSocial)を通して、様々な決定を発表する可能性もあることで、引き続きSNSからも目が離せないだろう。


(松井)
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