東京為替見通し=円高リスク多い、日銀観測記事・欧米の政治動向に注目

 昨日の海外市場でドル円は、米PPIの下振れをきっかけにドル売りで反応する場面もあったが、「関税引き上げの影響はこれから」との見方から米長期金利が上昇し、148.35円付近まで値を上げた。ただ、ダウ平均が一時680ドル超下落するとリスク回避の円買いが活発化し、一時147.42円と日通し安値を更新した。ユーロドルは「ロシアの交渉担当者は米国の一時停戦案を拒否」との報道をきっかけに、一時1.0823ドルまで弱含んだ。

 本日の東京時間でドル円は、主だった経済指標の発表などは予定されていないが、来週18-19日に開かれる日銀の金融政策決定会合に関しての観測報道が流れる可能性があることで、相場の急変には備えておきたい。また、市場のリスクとしてはドル安・円高リスクの方が優勢であるので上値の重さは変わらないか。

 来週の日銀政策決定会合では、市場は現状維持予想が大多数で、注目は次回利上げがいつ行われるかになる。現時点では5月、6月ともに利上げ予想は少数派で、多くは7月の利上げ予想になっている。ただ、昨日の参院財政金融委員会に出席した植田日銀総裁が、「人手不足の強まりで、賃金・物価が上がりにくい慣行に変化」「今後実質賃金や消費について良い姿が見込まれる」などと発言したこともあり、本邦長期金利が上昇するなど早期の利上げ期待感もある。

 上述のように昨日植田日銀総裁は「消費について良い姿が見込まれる」と述べたが、11日に発表された1月の家計調査で消費支出は前年比で予想の+3.6%を下回り僅か+0.8%になるなど、物価高で家計の消費は停滞したままになっている。植田日銀総裁の着任以来、経済指標の結果では政策方針を読み取ることが非常に難しくなっていることで、市場との対話は日銀関係者情報として報じられる、会合の前週やその週末での記事などが主になっている。よって、12日の春闘の集中回答の結果を好感したとの理由付けで、市場予想の7月よりも前倒しの利上げを示唆する記事が流れ、円高に動くリスクには警戒しておきたい。 
 
 また、欧米の政治的動向はリスク回避に動きやすいことも、円買い要因になる。ウクライナの停戦について、プーチン露大統領は昨日「原則的に同意するが、いかなる合意にも署名せず、さらなる交渉が必要」と平和を願うふりをしながら、ロシアの利権獲得が得られるまでは署名しないということを示唆した。プーチン露大統領は、ウクライナ東部のドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの各地域全体を掌握することを条件に停戦に応じると兼ねてから述べている。この和平案はウクライナや他の欧州各国が承服できないことは明らか。その場合のトランプ米大統領の対応が注目されるだろう。これまでのようにプーチン露大統領に迎合し、トランプ氏がウクライナは妥協するべきと応えると再びウクライナ情勢は振出しに戻りそうだ。

 また、トランプ関税については、日本についても徐々に厳しい発言が目立ってきている。日本は防衛面などでも米国依存体質があることで、交渉の切り札が少ない。昨日はベッセント米財務長官が「最近の市場でドルが下落しているのは自然な調整」と述べ、トランプ米大統領が3日に記者会見の場で「通貨安の国に関税を課す」と発言したことを追認したかたちだ。日本にとっては円安の修正が入ることは、渡りに船という面もあり、円高容認を交渉材料に使うようなことが起こるリスク(第2プラザ合意)にも備えておきたい。


(松井)
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