東京為替見通し=ドル売り介入困難さ増し円安進むか、本邦CPIにも要注目

 NY市場でのドル円は、米経済指標が総じて予想より弱い内容だったことが分かると一時158.25円付近まで弱含んだものの、米長期金利の指標となる米10年債利回りが4.22%台から4.29%台まで切り返すと一転ドル買いが優勢となり一時158.94円と4月29日以来の高値を付けた。
 ユーロドルは米長期金利の上昇に伴うユーロ売り・ドル買いが出たほか、6月ユーロ圏消費者信頼感速報値が予想を若干下回ったことが相場の重しとなり1.0702ドルまで弱含んだ。

 本日のドル円相場は引き続き円安地合いが継続しそうだ。昨日、米財務省が外国為替報告書で、日本を「監視リスト」に追加したことで、本邦為替当局者にはこの決定が重くのしかかるだろう。米国が同盟国でもある日本に対して厳しい措置をとったことは、日米財務省間が意思疎通をうまく図っていなかった結果と思われる。4月29日と5月1日(日本時間2日未明)に行われた為替介入後にイエレン米財務長官は「為替介入はまれな行為であるべき、他国への伝達必要」と複数回にわたって、本邦のドル売り介入への不快感を示した。特に「他国への伝達が必要」という文言は、上述日の介入前後に本邦為替当局者が米財務省への連絡を怠っていた可能性もあるのでは、と市場では言われている。ドル売り介入は原資調達のために米債券市場に影響も与えることで、インフレ対策に苦心している米財務省は、本邦為替当局者に対して快く思っていないのかもしれない。よって、今後の介入は「監視リスト」から「為替操作国」へと移行するリスクもあることで、ますます介入が難しくなったと言えそうだ。しかも、4月29日の介入の前営業日は一時154.99円まで下がったドル円が、29日当日に160円台まで上昇するなど5円超のドル高・円安だった。仮に本日160円台までドル円が上昇したとしても、僅か1円超のドル高でしかなく、イエレン米財務官がこれまで述べている「為替介入は過剰な動きへの対処であるべき」との動きにはならないと思われることも、介入が難しい一因だ。

 本日は経済指標の結果次第で、更なる円安を促す可能性があることにも要警戒。日本時間8時半に本邦の5月全国消費者物価指数(CPI)が発表される。市場では生鮮食料品を除くコア指数は前年比で前月の2.2%から2.6%へと上昇予想、コア指数にエネルギーを省いたコアコア指数は前年比で前月の2.4%から2.2%へと低下予想になるなど、まちまちな予想になっている。強弱どちらの結果への反応が大きくなるかと言えば、やはりインフレ率が予想より低下していた場合になる。今月行われた日銀政策決定会合で、7月の会合で長期国債買い入れの減額計画を発表すると発表。植田日銀総裁にいたっては短期金利の引き上げも示唆するなどタカ派の見解を示した。市場も7月の減額や利上げを織り込もうとしている中で、インフレ率が引き続き低下傾向を示していた場合は、7月の減額や利上げが難しくなる可能性がある。日銀が自らハードルを上げてしまった弊害で、インフレ圧力が弱まった場合には、円売りで大きく反応する可能性が高い。また、2営業日後(25日)に日銀が注目している「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」(刈込平均値、加重中央値、最頻値)が公表されるが、前回は刈込平均値が2022年7月以来の1.8%、加重中央値は2023年3月以来の1.1%、最頻値は2023年1月以来となる1.6%まで低下したこともあり、これらの指標もさらに低下しているのを確認すれば、利上げは当面先になるだろう。

 なお、昨日はスイス国立銀行(中央銀行、SNB)が政策金利の引き下げを敢行したことでスイスフランに対してもドル買い・フラン売りが進んだ。また、英中銀(BOE)は政策金利を据え置いたが、金融政策委員会(MPC)メンバーの2名が利下げを主張したことで、ポンドドルも軟調な動きになった。ドルが複数の通貨で底堅さを示していることも、ドル円の下値を支えることになりそうだ。

(松井)
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