東京為替見通し=アジア通貨高で円独歩安は困難か、日銀総裁発言・RBA理事会に要注目

 昨日の海外市場でのドル円は、米長期金利の上昇に伴う円売り・ドル買いが出ると一時144.34円付近まで値を上げた。しかし金利が低下に転じたタイミングで143.26円付近まで下押しした。ユーロドルは仏・独・ユーロ圏の9月製造業・サービス部門購買担当者景気指数(PMI)速報値が軒並み予想より弱い内容だったことが分かると、欧州景気の不透明感が意識されてユーロ売りが進行し一時1.1083ドルと日通し安値を付けた。もっとも、NY市場に入ると買い戻しが優勢となり下げ幅を縮めた。

 本日のドル円は昨日レンジを往復する値動きになりそうだ。先週末の植田日銀総裁による早期利上げに対する慎重発言以後、ドル円は堅調地合いを保っている。先週は一時140円を割り込む場面もあったが、市場が過大に日米金利差縮小を期待したことへの巻き戻しが短期的には出やすく、暫くドル円は支えられることになるだろう。

 もっとも、市場では日銀の再利上げに対する予想はいまだに高い。先週末の日銀声明文の内容も「消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想」とし、インフレ圧力について7月から変化が大きかったわけではない。

 これまで市場があまりにも前のめりに早期の利上げを決め込んでいただけで、今後は日銀の利上げペースが多少鈍化する可能性はあるが、日米・中銀の政策金利の方向性の相違が引き続きドル円の上値を圧迫することになる。

 また植田総裁は、7月・日銀会合後の会見での不用意発言で大幅に円高・株安が進んだことに対する反省から、今回は慎重な見解を示したとされている。他にも27日に行われる自民党総裁選を前に、総裁選の有力候補の一人でもある高市早苗経済安全保障担当相は「金融緩和を我慢強くやらなければ、また元のデフレ状態に後戻り」と日銀の引き締め政策に反対しているなど、政治的な配慮も慎重な発言になった一因とされている。

 そういったなか本日、植田総裁が午後に大阪経済4団体共催懇談会で挨拶を行う予定になっていることで、同総裁の真意を確かめる必要がある。通常は挨拶文が直前か同時に日銀のホームページ等でも明らかされ、内容が前回の会見と相違がある場合には市場を動意づけることもありそうだ。

 なお、本邦投資家は円相場にばかり目が移っているが、昨日はタイバーツ、先週末はマレーシア・リンギ、インドネシア・ルピア、シンガポール・ドルなどのアジア通貨が軒並み年初来高値(ドルの年初来安値)を更新した。先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)後も、この傾向は変わっていないことで、同じアジア通貨でドル円だけ買い戻しが進むのも難しいだろう。

 ドル円以外では、本日は豪準備銀行(RBA)の理事会が開かれることで豪ドルの動きに注目。市場では豪州のインフレトリム平均値が低下しているとはいえ3.8%台と高い水準で推移していることや、先週発表された豪州の8月雇用統計で失業率が高止まりし、常勤雇用者数が前月比で減少したことなどで、政策金利の据え置きが予想されている。

 なお、今回の理事会は政治的な駆け引き材料に使われていることもあり、豪州では非常に注目されている。チャーマーズ豪財務相はRBAの理事会改革を目指した法案を掲げているが、今回利下げが行われない場合は緑の党が財務相案には反対票を投じると宣言したことで、財務相の改革案が事実上廃案になる可能性が高い。RBAがその点も考慮し、どのような声明文を公表するかにも注目したい。

(松井)
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