東京為替見通し=注目イベントを前に神経質な動きか、トランプ政権支持率が低水準に

 先週末の海外市場でドル円は、米中貿易摩擦の緩和期待が高まったことで円売り・ドル買いを誘い、一時144.03円と14日以来の高値を付けた。ただ、米長期金利の低下に伴うドル売りが出ると一時143.45円付近まで下押しした。トランプ米大統領が「対中関税は何らかの譲歩がない限り引き下げない」「再度、関税を一時停止することはないだろう」と述べたことも相場の重し。ユーロドルは、ロンドンフィキシングに絡んだユーロ買いのフローが観測されると一時1.1389ドル付近まで下値を切り上げた。

 本日の東京時間でドル円は、今週多く予定されているイベントを控えていることで動きにくく、先週末のレンジを踏襲することになりそうだ。特に30日には赤沢経済再生相が渡米して5月1日に2回目となる日米関税交渉が行われるほか、日銀政策決定会合も30-1日に行われることで、1日が非常に重要な日になる。

 先週24日に行われた加藤財務相とベッセント米財務長官の会談後に加藤氏は「米国からは為替に関して目標やそれに対する枠組みの話は全くなかった」「具体的な為替レートについての話はなかったとした」と述べた。ただし、先週25日夜の読売新聞の報道によると、「ベッセント氏は『ドル安・円高が望ましい』と述べ、トランプ米大統領の意向に沿って為替水準への強い懸念を表明した模様だ」と報じている。これまでも重要な日米交渉後の会見で、両国の公表内容に大きな相違があった例は多く、加藤氏だけの話を鵜呑みにするのはリスクがあるか。

 会見内容の違いでは、2018年9月に行われた安倍政権と第1次トランプ政権の日米通商協議後の相違が有名だ。この会見後日本政府は、日米間の新たな通商協議である「日米物品貿易協定(TAG)」が行われたと発表した。安倍首相が「これまで(の自由貿易協定=FTA)と全く異なる」と表現したように、日本側だけの報道を見ていると、新たな取り組みが行われたと思われた。しかし、米国サイドは「TAG」などという言葉を一切使用せず、米国側の声明では「Agree to Negotiate a Free Trade Agreement」と従来のFTAを使用した。前回も今回も日本は選挙などのイベントが迫っていることもあり、会見内容に相違が出た可能性もある。今後の展開には注目したい。

 ドル売り・円買い圧力としては、日銀政策決定会合についても米国の圧力が日銀にかかっている可能性もあることも要因。ベッセント氏は先週「日本が先進7カ国(G7)の合意(=為替はファンダメンタルズを映し安定的に推移するべき)を尊重することを期待する」と述べているが、G7各国では為替(特に自国通貨安)を操作している形跡は直近ではない。しかしながら、トランプ政権は日本の低金利路線が為替操作と捉えている節もある。先週の植田日銀総裁が訪米時に、米国側から金利面での円安調整(日銀の金利引き上げ要望)があった可能性も否定できないことで、1日の日銀政策決定会合も注目される。なお、米連邦準備理事会(FRB)と違い、日銀は完全には独立性が確保されているわけではない。日銀法第4条で「金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』」と記載されている。
 
 一方、ドル買い・円売り圧力としては、先週からトランプ政権が対中関税圧力を弱めるなど、これまでの強気姿勢が影を潜めていることがあげられる。ここ最近の米トリプル安(債券安・株安・ドル安)の結果、大統領就任100日間(ハネムーン期間)終了が近づく中で、トランプ大統領の支持率は70年以上ぶりの低水準となった。トリプル安を避け、支持率を上げるために、関税に対する軌道修正があればドルの支えになる。ただ、先週は米政権が中国との交渉を進めているような報道が流れる一方で、中国が完全に否定するなど、遅々として進まない交渉の中で米政権からのフェイクニュースが流れる可能性がある。金融市場は仮にフェイクであろうとも、アルゴ取引を中心に反応してしまうことで、ボラタイルな動きを繰り返すことになりそうだ。


(松井)
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