東京為替見通し=円の買い戻しは短命で円安基調継続、イベント少なく値幅は限定的か

 先週末の海外市場でドル円は、155.25円まで下押し後、米早期利下げに慎重な見方を示す米連邦準備理事会(FRB)高官らの発言が相次いだことで155円後半まで戻して引けた。ユーロドルは1.08ドル後半で小幅な値動きに終始した。

 本日のドル円相場は、引き続き円安地合いが継続されるだろうが、値幅は限られるか。今月に入り米国で注目された2つの注目経済指標は、ともに市場予想よりも弱い結果となった。3日に発表された4月の米雇用統計の結果を受けて、同日にドル円は153円後半から151.86円まで約2円弱含んだ。また、先週15日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)後には156円半ばから翌日には153.60円まで下落した。しかし、この下落トレンドは1日程度しか持たず、翌営業日は再びドル円は買い戻されている。米経済指標悪化による米金利低下にもかかわらず、ドル円の下押しが限られたことは、ドル円の底堅さが改めて示されたと言えそうだ。

 ドル円の底堅さは、ドル買いと円売り要因が重なっていることだ。ドル買い要因としては、雇用統計とCPIという注目指標がいずれも弱い結果だったものの、4月卸売物価指数(PPI)は予想比を上振れ、今後のインフレを予想するミシガン大学やニューヨーク連銀が公表した期待インフレはいずれも上昇していることで、今後米国のインフレが低下をすることには確信が持たれていない。これらの経済指標の結果後に行われた米連邦準備理事会(FRB)要人の講演内容でも、インフレがこのまま落ち着くという楽観視した発言はなく、それぞれ下記のように述べている。

・ウィリアムズ米ニューヨーク連銀総裁「当面利下げの必要性はない」
・グールズビー米シカゴ連銀総裁「満足を得るには良好なインフレデータが数カ月続く必要がある」
・バーキン米リッチモンド連銀総裁「我々は正しい道を進んでいるものの、もう少し時間がかかりそうだ」
・メスター米クリーブランド連銀総裁「インフレ率が2%に向かうという確信を得るにはさらに時間がかかるだろう」
・ボウマンFRB理事「インフレはしばらく高止まりし、金利変更には引き続き慎重。インフレ進展次第では利上げも辞さない」

 シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」では、先週末時点では9月FOMCまでの利下げ予想が約64%になり、米国の利下げを予想する声は多い。しかし、市場は常に先取りをしようと動くものであることで、今後も確実にインフレが低下傾向にたどっていることが証明されるまでは、予断を許さず、早期の利下げ期待でドルを売り込むのは時期尚早だろう。

 一方、円安要因としては、ここ最近の本邦の経済指標がさえないものばかり出てきていることだ。先々週発表された3月の毎月勤労統計の現金給与総額は、予想を下回る僅か0.6%となり、物価変動を加味した実質賃金も過去最長の24カ月連続のマイナスだった。更に先週発表された1-3月期の実質国内総生産(GDP)は、予想を下振れ-2.0%となり、GDPの過半数以上を占める個人消費に至っては、4四半期連続のマイナスとなった。市場では13日に日銀が長期国債の買い入れ削減したことで、再び買い入れ額を削減することもあり得るとの声もある。しかしながら、断続的に金利を引き上げた場合は、短期プライムレートも引き上げられ、その余波で住宅ローン等も上昇し、更に消費が低迷することになるのは明白である。このような状況下で金利引き上げの継続性は難しいだろう。また、仮に円安を阻止するために利上げを繰り返した場合は、住宅ローンだけではなくコロナ以後は中小企業を中心に有利子負債依存度が高まっていることで、経済で様々なマイナス面が浮き彫りになり、本邦の更なるファンダメンタルズの悪化を引き起こし、別の意味での円安相場にもなりかねない。

 なお、本日はアジア時間では中国から最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)が発表されることと、3月の本邦第三次産業活動指数以外の経済指標の発表が予定されていない。また、欧米時間も市場を動意づけるような経済指標の発表予定がない。よって、円安地合いは変わらないと思われるが値幅は限られることが予想される。


(松井)
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