東京為替見通し=日銀自らのハードル上げで本邦経済指標のネガティブサプライズに警戒

 先週末のドル円は、日銀が金融政策決定会合で、具体的な減額計画の策定を次回7月に持ち越したことで、一時158.26円と4月29日以来の高値を付ける場面があった。もっとも、植田和男日銀総裁が7月の利上げ開始を示唆すると156.89付近まで下押しした。ユーロドルはユーロ圏の政治混乱が懸念される中、1.0668ドルまで一時弱含んだ。

 本日のドル円相場は引き続き円安地合いは変わらないか。7月末の日銀政策決定会合までは本邦経済指標などのネガティブサプライズが円安地合いをさらに強める可能性や、連日東京時間は東京仲値を中心に本邦勢からの円売りが出ていることで、円安地合いは継続されそうだ。なお、本邦の円売りの一部は新NISA(少額投資非課税制度)の導入による海外株投資への資金手当てともされている。

 先週行われた日銀政策決定会合では、国債購入の減額方針策定を今会合では行わないことにより円売りを助長させた。日銀サイドからすると、「次回7月30・31日の決定会合で、長期国債の買い入れの減額計画を決定する」と発表したことが、市場にとってはサプライズとなることを期待していた節がある。しかしながら、市場からすると先に次回会合の手札を見せてしまったことは逆効果になり、余程のサプライズとなる決断を下さない限りは7月会合も「織り込み済み」と判断されかねない。また、植田総裁は会見で減額規模を「相応の規模になる」と発言しただけではなく、「短期金利の引き上げは当然あり得る」とも発言し、タカ派トーンと捉えられる発言を繰り返したことで、円相場は大幅減額と短期金利引き上げだけでは、円買いに動かないリスクも増してきている。
 
 更に、本邦のファンダメンタルズが決して回復傾向にはないことで、利上げにより景気悪化を引き起こしかねないことにも警戒しなくてはならない。
 物価の影響を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」は過去最長を更新する25カ月連続減となった。1-3月期国内総生産(GDP)はマイナス成長になるなど、決して景気指標も好調ではない。また、日銀が全国消費者物価指数(CPI)発表の2営業日後14時を目途に公表している「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」では、刈込平均値は2022年7月以来の1.8%、加重中央値は2023年3月以来の1.1%、最頻値は2023年1月以来となる1.6%まで低下するなど、インフレ圧力もやや後退している。この中で、中央銀行が利上げに傾くのは正統的な対策とは言えないとの声もある。次回会合まではインフレ指標や日銀短観なども発表されることで、データ次第にはなるだろうが、日銀のタカ派姿勢が逆に自らを袋小路に追い詰めてしまった可能性もありそうだ。

 本日は本邦からは4月の機械受注が発表される。3月は前年比では昨年2月以来のプラスに転じたが、4月は再び小幅にマイナスになると予想されている。日銀が自ら利上げへのハードルを上げてしまったことで、通常は市場の反応が薄い同指標でもネガティブサプライズには反応することも考えられる。

(松井)
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