東京為替見通し=自民党新総裁選挙で大相場か、結果次第で日銀の動向にも影響

 昨日の海外市場でのドル円は、米10年債利回りが低下した局面で一時144.11円と日通し安値を更新した。ただ米長期金利が持ち直し、欧米株価の上昇を背景にリスク・オンの円売りがでると145.21円まで切り返した。その後はロンドン・フィキシングに絡んだドル売りのフローが観測されると144.51円付近まで下押しした。ユーロドルは月末・四半期末が近づく中、ロンドン・フィキシングに絡んだドル売りのフローが観測されると一時1.1189ドルと日通し高値を更新した。

 本日のドル円は大きな値動きになる可能性が高い。アジア時間では自民党の総裁選挙が最大の注目。自民党のホームページによると、「国会議員票」の投開票や「党員票」の開票が13時から行われる。ただし最初の投票では誰も過半数を得られず、立候補者9人の中で、石破茂氏、高市早苗氏、小泉進次郎氏の3人がそれぞれ100票以上獲得し、このうちの2名による決戦投票が行われるとの予想が大勢を占めている。
 
 3人の有力候補で誰が決選まで進み、新総裁(後に新総理)になるかが日銀の今後の金融政策へ大きく反映され、円相場にも影響を与えることになるだろう。日銀は他国の中央銀行と違い、日本銀行法第4条で「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と定められている。すなわち、これは日銀がある程度は政府の意向に従わなくてはならないとも言え、特に安倍政権発足後からは政府の要求に日銀が従う傾向は如実に示されている。

 3人の有力候補で石破氏は、7月の利上げについて「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げを容認。また、適正な為替水準については「常識的に(ドル円は)110円から140円と言われている」とも述べている。更に金融所得課税の実施も肯定的な考えを示した。

 高市氏は逆に「金融緩和を我慢強くやらなければ、また元のデフレ状態に後戻り」「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言し、日銀の利上げには反対している。

 そして小泉氏は「安倍晋三、菅義偉、岸田文雄各政権は政府と日銀の対話やコミュニケーションを重視してきた。そこは同じだ」と発言。また、日銀の独立性を尊重していることも主張している。しかしながら、金融政策に関しては言及を避け、小泉氏がたびたび指摘されるように何を考えているのかが分からない状態だ。

 これらの発言を鑑みた単純な比較でしかないものの、決選投票に石破氏と高市氏が残った場合は、短期的にはドル円は動きにくい。党員票が多くの比重を占める決選投票では、石破氏が党員から不人気なのは周知のとおりだが、アンチ高市氏が多いのも事実。ただし、上川氏に流れていた女性票や小林氏に投じた保守票が高市氏に流れるとの声もある。

 石破氏と小泉氏が残った場合は、利上げ反対の高市氏が消えることで日銀の利上げのハードルが下がることや、金融所得課税の実施の可能性もあり円高・株安に動くか。ただし、党員に不人気な石破氏よりも、キングメーカーたちが小泉氏の方が動かしやすいと小泉投票を促す可能性もある。

 高市氏と小泉氏が残った場合は、利上げを容認の石破氏が消えることで、日銀の利上げのハードルは大きく引き上げられ円安・株高になると思われる。

 もっとも、予想はあくまでも短期的な面だけで、今後も同様な傾向が続くとは限らない。例を挙げると積極的に財政拡大を計画している高市氏に対して、財務省は拒否反応を示している。一部ではアベノミクスの失敗を繰り返すことになるとの非難や、財政拡大が僅か44日で首相を辞任した英国のトラス首相の二の舞になる可能性も指摘されている。他有力2候補も中長期的に見て様々な不安点もあり、短期的な動きと中長期的な動きでは大きく変わる可能性も念頭に入れておきたい。

 なお、米国時間には米連邦準備理事会(FRB)が重要視する米個人消費支出(PCE)デフレーターの8月分が発表される。同指標の結果次第で相場展開も急に変わることもありそうだ。

(松井)
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