東京為替見通し=調整相場も実質賃金の下振れに要注意、選挙後の欧州通貨も要警戒

 先週末の海外市場でのドル円は、6月米雇用統計では非農業部門雇用者数が予想を上回り、円売り・ドル買いが先行。一時161.00円付近まで上げた。ただ、4月分と5月分が下方修正されたこともあってすぐに失速。失業率が4.1%と予想の4.0%より弱い内容となったことも相場の重しとなり、一時160.35円と日通し安値を更新した。ユーロドルは、米長期金利の低下に伴うユーロ買い・ドル売りが入り、1.0843ドルと日通し高値を更新した。
 
 本日の東京市場では調整色が継続する可能性があるものの、中長期的な円安の流れを変えるのは難しいだろう。先週は3日には1986年以来となる161.95円まで円安が進んだが、週後半は本邦輸出やポジション調整のドル売りも入ったことで160円台前半まで円が買い戻された。円安が続いたことで調整相場になりやすいが、円を積極的に買うには材料不足なことで、中長期的な円安の流れは変わらないと思われる。

 本日は本邦から複数の経済指標が発表されるが、注目したいのは5月の毎月勤労統計調査で発表される実質賃金の推移。4月は速報値では前年比-0.7%となったが、確報値では-1.2%と下方修正された。これで過去最長となる25カ月連続のマイナスを記録している。また、先週発表された、1-3月期の実質国内総生産(GDP)確報値も、前期比で改定値の-0.5%から-0.7%、前年比で-1.8%から-2.9%へと大幅に下方修正されている。実質賃金速報値、GDP改定値とも6月の日銀政策決定会合前に結果が出たあとに、確報値が修正されていることで、日銀は修正前水準でしか6月は景気見通しなどを判断していない。しかも、両指標とも改定幅が大幅に悪化したこともあり、これらの修正結果を見ていれば6月の日銀の見解と相違があっても不思議ではないだろう。また、5日に発表された5月消費支出は-1.8%となり、市場予想の+0.1%を下回る結果となっただけでなく、前月の313,300円から290,328円まで下がるなど内容も悪かった。相次ぐ経済指標の下方修正や、予想比下振れの指標結果が続いているが、5月の実質賃金の結果もさえないものとなった場合は、7月の日銀政策決定会合で短期金利引き上げなどの積極的な政策変更が難しくなるだろう。岸田政権が円安抑制策に対して全く手を打たない状況下で、7月に日銀が多少の長期国債の買い入れの減額にしか動けない場合は、さらに円安進行のリスクも高まりそうだ。なお、本日は日銀支店長会議も予定されている。

 東京時間では円相場が中心の値動きになるだろうが、欧州入り後は欧州通貨が大きく動意づきそうだ。週末7日に行われたフランスの決選投票では、左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」が議会の最大勢力になる見通しと伝わった。マクロン大統領が左派連合とどの程度協力する意思を示すかにより、今後の仏政局が流動的になることが予想される。早朝はややユーロ安が進んでいるが、欧州勢がどのように反応するかが注目される。また、英国の総選挙で労働党が地滑り的な勝利をおさめたが、新財務相には予想通りに元イングランド銀行(BOE=中央銀行)のリーブス氏が就任した。歳出拡大よりも財政規律を重視する同氏就任が決まり、ポンドがどのような動きを示すか注目したい。そして、9年ぶりに行われたイラン大統領選挙では、改革派のペゼシュキアン氏が勝利をおさめた。イランの政治は最高指導者のハメネイ師が実権を握るが、欧米との協調を訴える新大統領を迎え、欧州相場並びにドルの動きが注目される。

(松井)
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