東京為替見通し=米金融政策は転換点、中東リスク再燃もドル円の重しに

 先週末の海外市場でのドル円は、パウエルFRB議長の発言を受けてFRBによる9月利下げ転換が改めて意識されると、米長期金利の低下とともに全般ドル売りが活発化し一時144.05円まで値を下げた。ユーロドルは1.1201ドルと昨年7月20日以来約1年1カ月ぶりの高値を付けた。

 本日のドル円は上値が重いか。先週末のカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(通称・ジャクソンホール会合)でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が「政策を調整する時が来た」と述べ、改めて米金融政策が転換点を迎えたことを示した。市場ではこれまでの50ベーシスポイントの利下げ予想に傾くほどの過熱感はないが、冷静に今後の米金利低下を織り込んでいくことになるだろう。一方、同日に植田日銀総裁は日銀の調整の姿勢は変わらないことも示した。

 前回の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表された米経済指標は、7月の雇用統計は弱く、同月消費者物価指数(CPI)はほぼ予想通りとなるなど、7月末からはやや弱い経済指標が優勢だった。その間に内田日銀副総裁が植田日銀総裁の発言があまりにもタカ派と受けとめられたことをスムージングしたとはいえ、ドル円相場は8月中旬には149円台まで反発した。この動きは、あまりにも長期間にわたり円安地合いが続いたことで、すぐにまた円売り相場に戻るという考えを払しょくできなかったことでおきたのだろう。一部では、これまでIMM(シカゴ投機筋)のポジションが円ショートだったものが、僅かに円ロングに傾いただけで「円キャリートレードの余地が広がった」という声すらあった。7月の日米中銀の声明でトレンドの流れが変わったのにもかかわらず、いまだに円ショートに慣れてしまっている市場参加者が多く、ドル円のロングから抜け出せない市場参加者が多くいることで、当面のドル円は上値が重くなりそうだ。

 また、欧米の投資家は円だけではなく、他のアジア通貨も軒並み買っていることもドル円の上値を抑えるだろう。7月31日から先週までの間で、円は約3.9%対ドルで強含んだが、インドネシアルピアとマレーシアリンギは5%弱、タイバーツは4%程度、対ドルで上昇している。他のフィリピンペソ、韓国ウォン、台湾ドル、シンガポールドルなども対ドルで買われていることをみても分かるように、欧米の投資家は7月末を境にポートフォリオを完全に転換している。本邦投資家よりも中銀の動向に機敏に反応することができる欧米投資家が、この動きを継続することが考えられ本邦勢は乗り遅れている状況だ。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策が転換点を迎えただけではなく、ドル相場も7月末時点で転換点を迎えていたことに気が付かなくてはならないのだろう。

 週末25日にはレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、イスラエルに向けて数百発のロケット弾とドローンを発射した。もっとも、イスラエルが攻撃を察知していたこともあり、ヒズボラの先制攻撃も限定的だったとの報道もある。ヒズボラは今回の攻撃で「第1段階の報復は完了」としたが、「第2段階」の報復までに停戦協議が進むのか否かにより中東情勢の変化もあり、為替市場も中東情勢には目が離せずリスク回避の動きが優勢となるか。

 なお、本日は本邦からは6月景気動向指数改定値が発表される程度で、アジア時間は他国も主だった経済指標の発表が予定されていない。しかし、パウエルFRB議長発言後に多くの通貨が値幅を伴って動いたことで、本日の東京市場でも乱高下が予想される。


(松井)
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