東京為替見通し=米トリプル安、ドル売り以外にも円買い要因も多く上値限定的か
昨日の海外市場でドル円は、米中の貿易戦争激化への懸念から、米国株相場が大幅に下落した。米長期債やドルも売られ、「トリプル安(株安・債券安・通貨安)」の様相が強まり、一時144.02円まで弱含んだ。ユーロドルは、1.1241ドルと2023年7月以来約1年9カ月ぶりの高値を更新し、ドルスイスフランは一時0.8232スイスフランまで下落し、15年1月以来10年3カ月ぶりの安値を付けた。
本日の東京時間でドル円は、引き続き上値が限られそうだ。昨日の日本時間13時過ぎに米国は対中関税を125%、中国は対米関税を84%まで引き上げた。2大経済大国の景気悪化が濃厚なことで、リスク回避的な動きにより、ドル円の上値は重いだろう。また、ドル円は、ドル売り要因と、円買い要因が重なることで更に下値を広げる可能性もありそうだ。
この90日間で、ベッセント米財務長官は日本を含めたアジア諸国に対しての交渉を早急に開始すると述べた。アジア諸国の多くは中国やロシアなどの地政学リスクもあり、防衛面でも米国依存となっている。欧州やアフリカと比較した場合、米国にとってはこれらの国は交渉をしやすく、成果を早くあげたいトランプ政権にとっては与しやすいだろう。日本は交渉材料として、農産品の市場拡大、防衛予算増および米国からの防衛装備品購入、米国産品の輸出拡大のための各種基準や規制の見直しなどが予想されている。ただ、トランプ米大統領やラトニック米商務長官が、今回の関税のメイントピックとしているのは「米国の製造業の復活」であり、輸入拡大だけではトランプ政権が満足することはできないだろう。
米国の製造業に関しては、雇用とインフラは1970年代から縮小している。労働統計局のデータによると、米国では数十年前と比較し農場や工場で働く労働者が減り、大半がソフトウェア、金融、医療などのサービス業に従事していることがデータから明らかになっている。1970年代には、米国の労働者の5人に1人が製造業に従事していたが、今日ではその数は12人に1人程度に減少した。また、経済協力開発機構(OECD)の2004年から2020年のデータで、製造業が占める国内総生産(GDP)の割合は高所得国が15.5%から13.1%へ減少している一方で、低所得国は8.1%から11.6%へと上昇している。高所得国の米国の製造業が落ち込むのは理にかない、米国に製造業を復活させるのはかなりの困難を要す。困難な例として人件費を考えると、日本の平均賃金は国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者1人あたりの平均年収は460万円になっている。一方米国は6万5470ドル(1ドル=147円換算で962万円)となり、倍(以上)の額だ。また、日本を含め多くの自動車製造業があるメキシコの平均年収はおおよそ35万ペソ(1ぺソ=7.1円で換算で249万円)となり、米国の3.8-3.9分の1になる。人件費だけをみても、円安の影響で日本の製造業が米国に工場を移転するのはハードルが高い。しかし、仮にドル円が100円や2桁までドル安・円高が進んだ場合には人件費は下がり、単純ではないものの米国への工場移転ということも現実を帯びてくるだろう。日米両財務相が「為替についても交渉する」ことを認めていることもあり、この90日間の間にプラザ合意のようにドル高・円安の修正の合意を模索する展開になるかもしれない。来週には交渉を担当する赤沢経済財政・再生相が訪米するが、本日は石破首相が対応を指示する予定で、いよいよ日米交渉も大詰めを迎えることになる。
なお、4月2日から昨日までのドル売りの流れだが、対スイスフランでは7%のドル安が進んだのと比較し、対円でのドル安は3.2%程度に過ぎない。ユーロやデンマーククローネも同様に3%台のドル安になっている。この数年間の円安地合いの調整としては、まだ許容できないほどの円高とも言えないだろう。
(松井)
本日の東京時間でドル円は、引き続き上値が限られそうだ。昨日の日本時間13時過ぎに米国は対中関税を125%、中国は対米関税を84%まで引き上げた。2大経済大国の景気悪化が濃厚なことで、リスク回避的な動きにより、ドル円の上値は重いだろう。また、ドル円は、ドル売り要因と、円買い要因が重なることで更に下値を広げる可能性もありそうだ。
この90日間で、ベッセント米財務長官は日本を含めたアジア諸国に対しての交渉を早急に開始すると述べた。アジア諸国の多くは中国やロシアなどの地政学リスクもあり、防衛面でも米国依存となっている。欧州やアフリカと比較した場合、米国にとってはこれらの国は交渉をしやすく、成果を早くあげたいトランプ政権にとっては与しやすいだろう。日本は交渉材料として、農産品の市場拡大、防衛予算増および米国からの防衛装備品購入、米国産品の輸出拡大のための各種基準や規制の見直しなどが予想されている。ただ、トランプ米大統領やラトニック米商務長官が、今回の関税のメイントピックとしているのは「米国の製造業の復活」であり、輸入拡大だけではトランプ政権が満足することはできないだろう。
米国の製造業に関しては、雇用とインフラは1970年代から縮小している。労働統計局のデータによると、米国では数十年前と比較し農場や工場で働く労働者が減り、大半がソフトウェア、金融、医療などのサービス業に従事していることがデータから明らかになっている。1970年代には、米国の労働者の5人に1人が製造業に従事していたが、今日ではその数は12人に1人程度に減少した。また、経済協力開発機構(OECD)の2004年から2020年のデータで、製造業が占める国内総生産(GDP)の割合は高所得国が15.5%から13.1%へ減少している一方で、低所得国は8.1%から11.6%へと上昇している。高所得国の米国の製造業が落ち込むのは理にかない、米国に製造業を復活させるのはかなりの困難を要す。困難な例として人件費を考えると、日本の平均賃金は国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者1人あたりの平均年収は460万円になっている。一方米国は6万5470ドル(1ドル=147円換算で962万円)となり、倍(以上)の額だ。また、日本を含め多くの自動車製造業があるメキシコの平均年収はおおよそ35万ペソ(1ぺソ=7.1円で換算で249万円)となり、米国の3.8-3.9分の1になる。人件費だけをみても、円安の影響で日本の製造業が米国に工場を移転するのはハードルが高い。しかし、仮にドル円が100円や2桁までドル安・円高が進んだ場合には人件費は下がり、単純ではないものの米国への工場移転ということも現実を帯びてくるだろう。日米両財務相が「為替についても交渉する」ことを認めていることもあり、この90日間の間にプラザ合意のようにドル高・円安の修正の合意を模索する展開になるかもしれない。来週には交渉を担当する赤沢経済財政・再生相が訪米するが、本日は石破首相が対応を指示する予定で、いよいよ日米交渉も大詰めを迎えることになる。
なお、4月2日から昨日までのドル売りの流れだが、対スイスフランでは7%のドル安が進んだのと比較し、対円でのドル安は3.2%程度に過ぎない。ユーロやデンマーククローネも同様に3%台のドル安になっている。この数年間の円安地合いの調整としては、まだ許容できないほどの円高とも言えないだろう。
(松井)