東京為替見通し=黒田総裁にとって最後の日銀金融政策決定会合に要警戒か

 9日のニューヨーク外国為替市場でドル円は、前週分の米新規失業保険申請件数が21.1万件と予想の19.5万件よりも弱い内容だったことや米10年債利回りが3.89%台まで低下したことなどで一時135.95円まで下落後、136.48円付近まで反発した。ユーロドルは1.0591ドルまで上昇した。

 本日の東京外国為替市場のドル円は、黒田日銀総裁にとっての最後となる日銀金融政策決定会合の結果を見極めることになる。

 昨日のニューヨーク市場のドル円は135.95円まで下落し、米10年債利回りは3.89%台まで低下したが、市場は、本日の日銀金融政策決定会合や米国2月の雇用統計でのサプライズを警戒しているのかもしれない。
 先週末には、10日の日銀金融政策決定会合での12月のようなサプライズに警戒して、円高をヘッジする1週間物のドルプット・円コールの取引が話題になっていた。米国2月の非農業部門雇用者数は前月比+20.5万人と予想されており、1月の前月比+51.7万人からの増加幅の減少、そして1月分も昨年と同様に下方修正される可能性が警戒されている。

 8時50分に発表される2月の企業物価指数は、前年比+8.4%と予想されており、1月の前年比+9.5%からの低下が見込まれている。1月の輸入物価指数は前年比+17.8%と発表されており、昨年7月のピーク(前年比+49.2%)からは、原油価格の低下や円安基調の後退により、低下基調を継続していた。
 2月の輸入物価指数が低下基調を辿るのか、それとも、下げ止まるのか、見極めることになる。

 先月24日の衆議院での所信聴取での植田日銀総裁候補や、25日のG20財務相・中央銀行総裁会議での黒田日銀総裁は、日本の物価上昇に関して、奇しくも「輸入物価上昇によるコストプッシュが主因であり、2023年度半ばにかけて2%を下回る水準まで低下する」と同じ認識を示していた。両者にとっては、原材料価格の高騰は金融政策や財政政策とは無関係であり、財政出動や金融緩和を続けても良いということらしい。20世紀を代表するノーベル経済学賞の受賞者ハイエクは1976年の著作『貨幣発行自由化論』で「コストプッシュインフレなるものなど存在しない」と切り捨てていたが、両者はケインズ派なのからもしれない。

 日銀金融政策決定会合では、昨年12月会合のようにイールドカーブコントロール(YCC)の許容変動幅を拡大した場合、金融機関の3月期末決算に悪影響を及ぼすことから、現状の金融緩和策の維持が予想されている。また、黒田日銀総裁が重視している賃金に関しては、1月の実質賃金が前年同月比4.1%減少という2014年5月以来の大幅下落を記録し、10-12月実質国内総生産(GDP)改定値が前期比±0.0%に下方修正されたことも、現状維持の見通しの背景となっている。

 しかしながら、リスクシナリオとして、日銀新体制への円滑な移行のために、あえてYCCの許容変動幅の再拡大を決定する可能性は、低いながらも残されており、12月同様のサプライズには警戒しておきたい。
 白川前日銀総裁は、「日銀 宴の終焉」と題した東洋経済1月21日号で「政府・日銀『共同声明』10年後の総括」を寄稿し、国際通貨基金(IMF)の季刊誌に金融政策の新たな方向性に関する論文『変化の時(Time for Change)』を寄稿して、アベノミクスと異次元緩和を「壮大な金融実験」だったとして批判している。
 黒田日銀総裁が最後の日銀金融政策決定会合でYCCの許容変動幅の再拡大を決定した場合、「壮大な金融実験」が失敗だったことを認めることになる。
 日銀金融政策決定会合が予想通りに現状維持だった場合は、今夜の米国2月の雇用統計の発表を控えて、動きづらい展開が予想される。


(山下)
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