東京為替見通し=黒田日銀総裁の講演での「余計な事」に要警戒か

 23日のニューヨーク外国為替市場でドル円は、米10年債利回りが3.74%台まで上昇したことを受け133.14円まで上昇。その後、米ミシガン大学が発表した1年期待インフレ率が2021年6月以来の低水準となったことで132.70円台まで反落した。ユーロドルは1.0633ドルまで上昇したものの、米長期金利の上昇で上値は限られた。ユーロ円はドル円に連れ高となり、141.21円まで上昇した。

 本日の東京外国為替市場のドル円は、海外市場がクリスマスの振替休日で閑散取引の中、黒田日銀総裁の講演内容に注目する展開が予想される。

 報道によると岸田首相は、11月10日の黒田日銀総裁との会談において、今後「余計な事は話さないように」と釘をさしたとのことである。先週のYCCの変動許容幅後の「利上げではない」との発言もそうだったのか、そして、本日の講演でも「余計な事」には言及しないのか注目しておきたい。

 先週の日銀金融政策決定会合では、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)政策における10年国債金利の誘導水準を0%程度に維持しつつ、変動許容幅を従来の上下0.25%程度から上下0.5%程度に拡大するが決定された。

 黒田日銀総裁が2013年に異次元の「量的質的金融緩和」を導入して以降、10年国債利回りの変動幅は-0.2%から+0.8%までの1.0%程度だった。すなわち、今回の変動許容幅が±0.5%、1.0%に拡大したことは、10年国債利回りのコントロールを解除したこと、すなわち、事実上YCCの終了と言える。
 
 日本銀行は、これまで長期金利の上限0.25%を死守するため、無制限に国債を買い入れる指し値オペを毎営業日実施してきた。そして、内田日銀理事は2022年5月の国会での証言で「変動幅の拡大は、事実上の利上げであり、日本経済にとって好ましくない」と述べた。黒田日銀総裁も日銀金融政策決定会合後の会見で、変動幅の拡大に否定的な見解を述べてきた。すなわち、6月には「変動幅の拡大は考えていない」と述べ、9月には「上限引き上げは利上げに当たる。金融緩和の効果を阻害するので考えていない」と述べていた。そして、先週の変動幅拡大決定の後の会見では、「変動幅拡大は利上げではない」という奇妙な発言をしている。

 本日の黒田日銀総裁の講演では、来春の退任に向けて、YCCや指し値オペの停止という「金融政策正常化」の行程が示されるのか否か、要注目となる。また、今回の決定に関して、岸田総理周辺が「まったく知らされていないし驚いた。株価も下がって迷惑だ」と発言したと報じられており、決定にまつわる経緯への言及にも注目しておきたい。

 リスクシナリオは、金融政策正常化が示された場合であり、円・キャリートレードの巻き戻しを誘発する可能性が高まることになる。

 なお、先週末23日に発表された米連邦準備理事会(FRB)がインフレ指標として注視しているPCE総合価格指数は、2021年10月以来の低い伸びとなる前年比+5.5%となり、6月の前年比+6.8%をピークに伸び率の鈍化傾向が確認された。また、12月のミシガン大学消費者信頼感指数・確報値での1年先のインフレ期待は4.4%へ下方修正され、2021年6月以来の低水準となった。11月の消費者物価指数(CPI)も、6月の前年比+9.1%から7.1%まで伸び率が鈍化している。

 CPIは、家賃や自動車などの自己負担支出を対象としているが、FRBが重視するPCEは、米国民による消費全てのコストを測ることを意図している。この2つのインフレ指標の乖離幅が大きくなれば、先行きのインフレ率上昇を示唆し、11月のように小さくなれば、インフレ率の低下を示唆するため、2023年のFRBの早期の利上げ休止観測を高めている。


(山下)
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